ナダル選手の13回目の優勝、通算100勝という驚異の結果で終了した全仏オープン、わが日本の西岡良仁選手は見事初戦を突破しています。
初戦では、NEXT GENの旗頭とも呼ばれるカナダのオジェ・アリアシム選手をなんと3-0のストレートで破るUPSETを演じました。
西岡選手のプレースタイルが、この若きシード選手を苦しめ、打ち破ったのです。
3回戦で優勝候補ティーム選手に大善戦したガストン選手に、2回戦で敗れた西岡良仁選手ですが、そのプレースタイル、強みはどのあたりにあるのでしょうか?
西岡良仁のプレースタイル
西岡良仁 全仏OP2年連続の初戦突破、鉄壁守備で第19シードを翻弄<男子テニス> #全仏オープン #西岡良仁 https://t.co/2uErzVqyl9
— スポーツナビ (@sportsnavi) September 28, 2020
西岡良仁選手のプレースタイルは、戦略的アグレッシブ・ベースライナーと言えます。
ラリーの中でまるで詰め将棋のように相手をじわじわと追い込んでいき、フィニッシュしてポイントを重ねていきます。
かと思うと、相手の思いもよらないショットを繰り出してのポイントや、180キロほどのスピードのサーブで、ノータッチエースを奪うのです。
グランドスラムで、シード選手をも破ってしまうその強さの秘密を、解き明かしていきましょう!
西岡良仁のサーブ
西岡良仁選手が世界No.1のナダル選手に対し6-7.4-6で敗れましたが、世界のトップと互角に渡り合う素晴らしいプレーでした!
なお身長170cmは世界で最も小柄な選手の一人。
サーブを構えたとき、左が170cm目線で右が210cm目線、ネットの白帯がベースラインの下にきてますね・・見える景色が違います。 pic.twitter.com/k7ehE8mn21
— 吉崎仁康 (@yoshi_yoshizaki) January 8, 2020
西岡良仁選手のサーブは、スピン量の高いスライス系のサーブです。
同じサウスポーのナダル選手の若いころのサーブと少し似ている面があります。
今のナダル選手は年々サーブのスピードが上がり、200キロ近いサーブを打っていますが、若いころは170キロそこそこでした。
185センチのナダル選手に対して、西岡選手は171センチと格段の体格差です。
従って一発のサービスエースを狙うというよりは、後のラリーを有利に展開しようとする意図のサーブを打っています。
特筆すべきはアドサイドからのサーブ、基本戦略は相手を外に追い出すような外に逃げていくスライスサーブです。
右利きの選手の割合が多いわけですから、この場合の相手選手返球はバックハンドとなり、なかなかクリーンなリターンをすることができません。
その返球を西岡選手はオープンコートへ叩き込むのです。
アドサイドではこれを基本戦略とし、まれにセンターへのサーブを打ちます。
これがまさに効果的、外に逃げるサーブの切れが良ければよいほど、センターへのノータッチエースの可能性が高まるのです。
デュースサイドからのサーブは、相手身体に食い込んでいくようないわゆるボディーサーブを基本としています。
長身、リーチも長い外国選手は、半端に左右へ振られても逆にチャンスボールとなるケースが多いです。
身体の近いところへ打って、気持ちよくリターンさせない戦略を用いています。
西岡良仁のリターン
深センオープンテニス決勝
西岡良仁vsエルベール
第1セット西岡君のリターンは良かった
その後のショットも決まる
ADも取って3-2となる。 pic.twitter.com/BBDVkQR0P7— 博貞長真 (@hakusadaosa) September 30, 2018
西岡選手のリターンは、戦略を練りに練られたリターンといえます。
リターンの上手な選手といえば世界最高峰のジョコビッチ選手、そしてわが日本の錦織圭選手が有名ですが、西岡選手ももちろんリターンが武器の一つです。
ジョコビッチ選手や、錦織選手がみせる鮮やかなダウンザラインへのリターンエースといった派手さはありませんが、西岡選手はリターンを相手を追い込んでいく最初の布石と考えています。
テニスは相手のあるスポーツであり、自分の思い描いた通りにラリーが進むことは稀です。
西岡選手はまず基本的に相手バックハンドの高いところでボールを打たせるよう、リターンから開始していきます。
ここから相手返球に合わせ、Aプラン、Bプラン・・・の展開プランを進めていき、フィニッシュポイントまで持っていくのです。
200キロを優に超すサーブを打つ選手が珍しくない今般、リターンに優れた西岡選手といえども、手も足も出ないノータッチエースを奪われることもあります。
そんな中で、特にセカンドサーブとなった場面でのリターンゲームにおけるポイントの奪い方は、極めて重要なファクタです。
西岡選手がどういった意図でリターンショットを打ったのか、その後の展開を推理しながら観戦すると、テニス観戦が更に面白くなります。
西岡良仁のフォアハンド
よし、2セット目は獲った!
西岡選手のフォアハンドが1セット目より良くなった。高く、深く入る様になってきたー
その調子で👍#ATP1000 パリ pic.twitter.com/ljN0qDHXOk
— かつおヨシ (@katsuoyoshi) November 3, 2020
西岡選手のフォアハンドは、ヘビートップスピンの高弾道ボールを基本としています。
ヘビートップスピンといえば、全仏で13回目の優勝を飾ったナダル選手が有名ですが、西岡選手もこの安全にネットを超え、ベースラインにきっちり収まるトップスピンボールが持ち味なのです。
ナダル選手が頭角を現したころ、当時無敵であったフェデラー選手を打倒するまず第一の基本戦略として、フェデラー選手のシングルバックハンドへ強烈なスピンの効いた高弾道ボールを打ち込む、というものがありました。
なまじのスピンボールでは、驚異のテニスセンスを持つフェデラー選手に回り込まれ、逆にチャンスボールとされてしまいますが、それを更に押し返すスピンボールで、ナダル選手はフェデラー選手を打倒していきます。
西岡選手の基本戦略もここです。
一本のフォアハンドウィナーを狙うのではなく、その後の展開テニスに有利となるような布石を打つショット、もちろん相手ボールが浅くなれば角度をつけ、ウィナー級のショットを打ちますが、最初からウィナーを狙うことはほとんどしません。
西岡良仁のバックハンド
選手No.1 西岡良仁選手
左利き、両手バック
プレースタイル、拾いまくる
得意ショット、バックハンド
怪我を乗り越え今年復活、全仏ではベルダスコと死闘を繰り広げた。
今はランキングは怪我のため落ちているが最高ランクは58位、22歳と若手なので飛躍が期待できる! pic.twitter.com/Y3qriZTaAw— テニス名勝負、選手垢 (@rLqz7hZMY8FdKh5) May 28, 2018
西岡選手のバックハンドは、タイミングの早いカウンターパンチャーと言えます。
西岡選手のバックハンドはフォアハンドとは異なり、比較的低い弾道のフラットドライブ系のボールです。
西岡選手がケガから復帰し、ランキング自身最高位まで上げた要因の一つはこのバックハンドの威力増大にあります。
「相手のバックハンドを狙う」という戦略は、いかなるレベルのテニスにおいても基本となっています。
やはりテニスプレーヤーが最初に覚えるショットはフォアハンドストロークであり、打つ頻度もかなり多いはずです。
これに比しバックハンドは、練習機会も少なく、打つ頻度もあまり多くないため、難しいショットの一つと言われています。
そのため、大会などでは、試合に勝つ戦略として相手バックハンドにボールを集めるということが、かなり多いです。
プロの試合でも同じことが言えますが、プロはあまりにもバックハンドを狙われるので、逆にそれを武器とするプレーヤーも少なくありません。
錦織選手はその代表格であり、バックハンドをフォアハンドより得意にしています。
さて、西岡選手のバックハンドですが、まずフォアハンドで高弾道トップスピンでの深いボールによる攻撃で相手をベースライン後ろへ追い込みます。
そして、バックに返球が来た場合は、西岡選手がベースライン内側に入って、ほぼライジングショット気味の早いタイミングでクロスコートへハードヒットして相手の時間を奪うのです。
これを打たれた相手は、よほどの動きの良いプレーヤーでないと、十分な体勢で次のボールを打てません。
チャンスボールとなる確率が高くなり、更に中に入った西岡選手に角度をつけられたり、ボレーされたりして万事休すとなります。
このところの西岡選手は、このショットのスピード、タイミング、コースいずれも相当なレベルアップです。
あえてダウンザラインを狙わず、クロスコートへのショットでチャンスボールを引き出してポイントとしていましたが、最近の試合では、ダウンザラインショットもよく決まっています。
こうなると鬼に金棒でしょう。
西岡良仁のボレー
【テニス】西岡良仁がケルン選手権2回戦で第7シードのシュトルフ(ドイツ)に2-6、6-3、7-6で競り勝ち、今季ツアー2度目の8強入り
2-3から5連続ポイントのタイブレークは『アグレッシブにプレーできた。ネットに出るのは怖さもあったが、行くしかないと思った』
素晴らしい集中力でした@TennisTV pic.twitter.com/xmgUpOLNkP
— Masashi INOUE 井上将志 (@kyodonewsports) October 22, 2020
西岡選手は、積極的にボレーを活用していたプレーヤーとはいえませんでした。
但しこのところの進化は目を見張るものがあります。
西岡選手は、プレースタイルがベースライナーですので、従来からラリーのなかで優位をとり、相手を追い込んでから仕留めるショットとしてボレーを用いています。
西岡選手が尊敬するプレーヤーとしてあげているだけに、ナダル選手にプレースタイルが似ています。
以前のナダル選手は、ストローク戦においてポイントを取るケースが多かったのですが、近年の進化はネットプレーの多用です。
ここに、ナダル選手が幾多の危機を乗り越えて世界トップランカーを34歳にしてキープしている秘訣があります。
先の全仏オープン2020での西岡選手の試合ぶりは、このナダル選手の「進化」をにおわすプレーが見受けられました。
それは大事なポイント、例えば自分のサーブのブレークポイントなど、ここぞどうしても欲しいポイントでのネットプレーの活用です。
従来、相手を追い込むまではネットに出ないことが多かった西岡選手が、積極的にネットを取り、アグレッシブにポイントを奪っていました。
そして相手がスライス面をみせたりした場合の、ちょっとしたスキをついてネットプレーで決める、うならせるプレーも披露しています。
まとめ
🎾 #全仏オープン 🎾
「素晴らしいプレーヤーだ!」 #西岡良仁 の全仏OPでの快勝に、海外ファンからも賞賛【テニス】
※19シードのオジェ-アリアシムに勝利。おめでとう👏#RolandGarros
https://t.co/pIlLufnSwV— スマッシュ編集部 (@smash_monthly) September 29, 2020
西岡選手は、定評のあるラリー戦略、キレで勝負するサーブ、戦略的なリターン力に加えて、ネットプレーの多用や、更にもしドロップショットをもっと使いこなせば、相手にとってさらに極めて難しいプレーヤーとなるでしょう。
最後に西岡選手のこういったプレーを裏打ちするのは、世界最高峰のフットワークであることを申し上げておきます。
西岡選手の更なる大活躍に期待、注目です!
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